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 団塊世代の地方公務員の退職が本格化するのを受け、41道府県が2007年度予算に、退職金を借金で賄う「退職手当債」の発行を計上、総額約3300億円に上っていることが分かった。
 苦しい地方財政があらためて浮き彫りになるとともに、予想された退職者の急増に備えを怠った自治体の対応に批判が出そうだ。 集計では、07年度中に定年を迎える都道府県職員は約3万7000人で、総務省が早期退職分に限っていた手当債を06年度から定年退職分にも認めており、将来の自治体財政をさらに圧迫する要因となるのは確実だ。
・・・企業ではこんなこと(退職金のために借金!)は到底通りません。ましてや、問題の先送りどころか、将来にツケのみを回すという手法です。
 今や、毎日各ニュースのどこかで「年金加入記録問題」がクローズアップされておりますがこの「年金不安」の次は、必ずや「退職金不安」の波がやってくることに間違いありません。
 国や地方公共団体は上記のように「退職手当債」という「ウルトラC」を使うことができますが、金融機関もさすがに退職金のために融資などむつかしいでしょうし、もしできたとしても辞めていく社員のために会社が負った借金を残った従業員がモチベーションを持ち続けて労働に汗するとはあまり考えられません。



 こんな話もあります。
 ある中小企業で、30年近い長期勤続者の方の退職時期が近づきました。金庫を開けて就業規則を取り出して計算したところ、予想額の約3倍になっていましたそんなお金はありません。社長は、平身低頭お願いしてなんとか分割支給にしてもらいました。高度成長時代に作られた基本給連動型退職金制度(いわゆる「退職金=退職時の基本給×勤続年数(係数)」)が放置されていたのです。
  この話には後日談があります。その年の全員の賞与はカットされました。それのみならず社長を含む管理職全員の給料も減額となりました。たった一人の退職者でこの影響です。たまたまその年度の退職者が1人でしたから退職金倒産という最悪の結果にはならずにすみましたが、もっとたくさん退職者がいたら・・・と思えば、まだ不幸中の幸いだったかもしれません。
  一番大切なことは、退職金は遠い将来の債務ではなく、今現在の人件費なのです。この認識が欠けているのが一番の命取りです




 そこで、今一度皆さんの会社の「退職金」について考えて見ましょう!退職金のある会社もない会社も「あるべきか、やはりなくてよいか」をです。その際にすでに退職金のある会社様は、「既得権」と「期待権」について知っておく必要があります。

①「既得権」
  新制度へ移行する日が「月の初め」であるならば、その前日(つまり前月の末日)で計算した自己都合退職金額のこといいます。最低この額の保障は必要です。

②「 期待権」
   例えば基本給連動型退職金の場合を例に取ると、基本給が上がるか下がるかは保障されていませんが、勤務年数による乗率は就業規則に明確に定められています。現在の基本給×定年時の乗率で計算した金額と、新制度で計算した金額(例えば現時点での等級別掛金額の定年時の退職金額)とを比較した結果(差額)が「期待権」です。
 一般的に既得権は聖域、期待権は全員から同意をうることを念頭においてその差額をいかに平準化し、負担を応分するかが労使交渉の肝となります。
 また、いわゆる退職金制度変更は水準を見直すことなり「不利益変更」の問題も出てきますので、次の点抑えておく必要があります。

いわゆる「不利益」とは・・・
(1) 賃金や退職金などの労働者にとって重要な権利、労働条件を不利益に変更する場合、そのような不利益を労働者に及ぼすことが認められるだけの高度の必要性に基づいた「合理的」な内容でなければならない。
(2) 退職金等を不利益に変更する場合には、その不利益を緩和する代償措置や経過措置をとることが望ましく、「合理的」な内容かどうかの判断において、代償措置は、直接的なものだけでなく、間接的に不利益を緩和するものまでも含まれることがある。
(3) 退職金の不利益変更
 最高裁判決をみると、代償となる労働条件を提供していなかったことを理由として、退職金の不利益変更の合理性を否定した御國ハイヤー事件( 最二小判昭58.7.15 労判425‐75)がある。直接の代償措置といえないものの、合併に伴う労働条件の改善点などを間接的な代償措置として評価し、合理性を肯定している。また、財政逼迫などの必要性があり、代償措置などの内容も相当であるとして、独自の年金制度の廃止の合理性を肯定したもの(名古屋学院事件 名古屋高判平7.7.19 労判700‐95)がある。



・・各企業にお邪魔して退職金規程を拝見しますと、よく「賃金(≒基本給)連動型退職金制度」を目にします。この制度は、将来の賃金制度の変更に対応できないばかりでなく、実は将来の退職金見込み額の算定ができないしくみなのです。したがって、ファンド(資金準備)をどのように?、いくらくらい?していったらよいのかがわからず、結局準備できていない!という企業がほとんどであるのが実態です。



たしかに退職金は「退職しなければ請求権のない」賃金であることにかわりはありませんが、退職してから用意するにはあまりにも金額が大きすぎます。退職金制度改定のステップとして、現在時点の御社の退職金制度での退職給付債務(現在時点で全員が退職した場合に支払うべき退職金)を把握し、将来の退職金(現行に近い形で昇給していた場合に、定年時点で各人がいくらになるのか、また、各年度ごとに退職者がいるのか、いるとすれば用意すべき退職金はどのくらいか・を「現状分析」としてしっかり把握した上で、次のステップ(退職金制度の具体的方向性)へ移ります。





退職金は、「だれでもが等しく」支給されるのではなく、「支給されるべき人」により支給する制度が好ましいと考えます。せっかくの退職金、大金です。なんとなくとか、平等とかではなく、会社の思いを託した退職金であるべきだと考えます。